明けましておめでとうございます。
旧年中は番町の町並みを守る会の活動にご理解とご協力を賜り誠に有難うございました。
本年も宜しくお願い申し上げます。
さて、女子学院の目の前に建設されました日本テレビ(以下「日テレ」) のスタジオ棟はとうの昔に完成し、多くの人々が出入りして番組収録や観覧が行われています。しかしながら、未だ正式竣工とはなっていないようです。私どもには本当の理由は分かりませんが、スタジオ棟の高さを50メートルではなく、60メートルとするに当たり、条件とされた筈の公開空地が未だ地域に開放されておりません。一方、隣接する旧日テレ本社ビルの取り壊し作業が進んでいる中、日テレは跡地の利用につき未だ具体的な提案をしていません。スタジオ棟を正式に竣工させない理由は日テレ本社跡地開発と関係するのでしょうか?
私どもは本年も、住宅街・文教地区としての番町の価値を守るため、「日テレ通り沿道の再開発を現行地区計画の範囲内、即ち、高さに関しては60メートルの範囲で行うよう、行政・町内会・日テレに働きかける」ことを最重点施策として活動を続けて参りたいと思います。
ここで、今迄の活動に付いて回顧します。
時の経つのは早いもので、皆さま多数の方々から頂いた署名を添え、千代田区議会に対し、日テレ通り沿道の再開発に付き慎重な対応を求める陳情を行ったのは2018年の夏でした。その結果、同9月に開催された千代田区主催「日テレ通り沿道まちづくり協議会」に於いて、より慎重な議論が必要であることが認識され、当時の基本構想に付いてのパブリックコメントの実施が延期されました。その後、この協議会は2019年1月を最後に開催されておりません。
2019年4月にはクラウドファンディングによる資金集めを行いました。私達の活動をご支援いただく方々より、目標であった200万円を大きく上回る278万円ものご支援を頂きました。誠に有難うございました。
この一年、日テレや千代田区役所の動きがない中、私どもは5回の勉強会、2回のまち歩きを開催致しました。勉強会には毎回多くの住民の方に集まって頂き、都市計画の専門家や他区の町づくりをしてきた方々から学びました。又、区議会や都市計画審議会における審議を手分けして傍聴致しました。その中で、私たちが学んだ事、又、あらためて皆様に訴えなければならないと思った事をご紹介申し上げます。
(1) 1998年、区政を敷いて始めて千代田区の人口が4万人を割りました。危機感を持った区役所は2001年に、区の人口を5万人に増やす計画を策定しました。その効果により千代田区の人口は2013年に目標を突破、その後も増え続け、現在は6万6千人に達しています。
大手町・丸の内は大きく変貌し、世界に誇る美しいビジネス街になりました。しかしながら、その反面、千代田区内のビルからのCO2排出量は1990年比1.14倍に増えました。東京23区の内、8区が排出量削減に成功している中での千代田区の増加です。
(2) 人口増加政策には成功したものの、その結果として千代田区は住宅地としての条件を悪化させました。
例えば、
① 一年で気温が30度を超える総時間数は23区の中で千代田区が最も多く466時間に達しています。二番目は練馬区の410時間で、千代田区は断トツの一位です。東京は夏場のマラソンが危険な街になってしまいました。一方、千代田区の説明では区の緑化率は上がっているとのことです。ビルの建設など、緑化促進を帳消しにする要因があったのであろうと推測しております。
② 人口増加ならびにオフィスへの通勤客の増加により区内の交通インフラが不足し、地下鉄駅のラッシュアワーは危険な状態になっています。番町・麹町地区の小学校の生徒数も大きく増加し、今ではクラスの増設が喫緊の課題となっている程です。
(3) 日テレ通り沿道のビル建設に当たり、日テレは現行の高さ制限を緩和する事の見返りとして、①地下鉄麹町駅番町口にエレベーター・エスカレーターを設置し、バリアフリー化を進める事、並びに、② 敷地内に広場を設ける事の二点を提案しています。これらの点に付いて私どもは次の通り考えます。
まず、①のバリアフリー化ですが、地下鉄駅の上に、現行地区計画で許されている60メートルの大型商業ビルを建設する場合でも、駅に直結するエレベーター・エスカレーターを設置する事により、その商業ビルの価値は上がります。利益を追及する事業者はビルの価値を上げる為にもバリアフリー化を進める筈です。バリアフリー化は利用者のみならず、事業者にとっても利益になる事なのです。国会議事堂ですらバリアフリー化を進める時代です。健全な企業が地下鉄麹町駅の上に建つビルをバリアフリー化しない事が経済的・社会的に許されるでしょうか? 高さ制限の緩和と言う見返りを出さなければ、バリアフリー化をしないと主張されるのでしょうか?
昨年末、開催された区の公聴会で麹町駅を利用する複数の通勤者が麹町駅の混雑緩和の為のバリアフリー化を主張されました。しかしながら、麹町駅の問題は有楽町線のプラットフォームが二層になっている事に見られる通り、構造上、駅そのものの拡張が難しい点にあります。エスカレーターの速度は人が歩く速度と変わりません。バリアフリー化はその名の通り、子供・老人・障害者など弱者を助ける為のものであり、駅の収容能力を高める為のものではありません。むしろ、大型商業ビルを建てることにより、現在の混雑に輪を掛ける混雑が出現する事を危惧します。
②点目の広場の問題ですが、皆様ご承知の通り、日テレ通りは片側一車線の狭い通りです。ここに100メートル超の超高層ビルが建設されますとビル風の影響により、広場で子供達がのんびり遊ぶ事はできなくなります。又、地震の際の危険度は高層であればあるほど高くなります。日テレ通り沿道に超高層ビルの建設を許容することによる悪影響を慎重に分析する必要がありますが、これらの予測調査は全く行われておりません。
私どもは日テレ通りの整備に反対するものではありません。是非、進めて頂きたいと思います。ただ、町の約束事である地区計画に沿った再開発を望むものであります。
以上の考えを踏まえ、我々は今年の目標として次の項目を掲げました。
(1) 行政・日テレに対し、引き続き、日テレ通り沿道の適切な整備・開発を要請していきます。特に、規模の拡大を狙った大型再開発が如何に番町の住宅街・文教地区としての環境に影響し、ひいてはその価値を落とすことになるかを訴えます。
(2)五番町を中心とする市ヶ谷駅再開発計画に付いてモニタリングを続けます。五番町には地区計画がありません。しかしながら、番町の一部として番町の佇まいに見合った計画とするよう、行政・大手地権者に訴え掛けて行きたいと思います。
(3)現在、千代田区では区の都市計画の憲法たる都市計画マスタープランの改定作業を実施しています。我々はこの動きを注視し、行政に対し上記(1)(2)と調和する都市計画の実現を働きかけていきたいと思います。千代田区役所は、番町に付いては「老朽化したビルの建て替えのために、高さ制限の緩和による建て替え促進策」を提案しています。しかしながら、武蔵小杉で起こった通り、インフラ能力に見合わない高度開発は災害に対する対応能力を弱めるばかりか、新たな人災を招くことになりかねません。ましてや災害対策に名を借りて、企業の収益拡大に力を貸すような政策は番町地区においては本末転倒の政策であると思います。
私どもは千代田区の区議の方々、都市計画審議会の委員の方々の良心を信じ、対話を重ねて行きたいと思います。今後とも、ご支援を宜しくお願い申し上げます。
尚、本年最初の勉強会は3月23日 月曜日19時よりグロービス経営大学院にて開催を予定しております。追って、詳細なご連絡を差し上げますが、予定表に書き入れていただけると幸いです。
番町の町並みを守る会共同代表・事務局一同